呉智英「文章表現法」9/22

後ろの方から、「話の面白い先生だから3年連続で受けてる」という女の人の声が聞こえてきました。

今日が最初なので全般的な説明をする
講義の進め方について
最初の3回ほどは文章表現の要点のようなことを講義する
その後は、講義の数が毎年平均12回くらいあるが、
残りは諸君らに実践をさせる 毎回宿題を出す
文章表現論ではなく文章表現法
実際にやらないと意味がない

理科系の大学なので文章が下手な子が多いのでこういう講義をやってくれと
理科大で教えている友人に頼まれた
大学で教えるのは本業ではない
赤字だけれど来ている
本業はいろいろあるが
カルチャーセンターでも文章表現を教えている
そこでは中級〜上級を教えている
ここでは初級を教える

課題は
A4の原稿用紙 縦書き手書き

ワープロも便利だが
実際に書かないと字が書けなくなる
肉筆直筆を書かないといけない時が人生の中にはある
就職の時の履歴書
これは手書きが一般的

私は字が下手ですが
諸君らはきちんと書いてください

縦書きが大事
今後また細かく説明するが400字詰めの原稿用紙に書いてもらう

試験はなし
課題を出せば6点(提出点5点+最低点1点)
10回で60点 単位は来る
点数は極めて諸君らにとって有利になっている
文章で人は死なないから

諸君らの課題をプリントして配る
名前付き
当人の励みになるでしょう
そうしないと巧くならない

勤めている人は遅れてくることもあるだろうけど
課題を出す事が大事

「文化論」よりも「文章表現法」の講義の方が人数が多い
それは文化論は役に立たないが
文章表現は役に立ちそう
しかし文章表現は添削をしないといけないから人数が多すぎると面倒
最初に小試験をやって巧いやつをとっても
下手なやつを巧くするのが目的だから意味がない
選別は最初の3回の出席によって決定する
出席カード3回分によって履修登録を受け付ける
社会人で出張・残業などで来られない人も居るかもしれないが
証明書(形式は問わない)をくれればよい
病気やゼミ合宿も、医師や指導教官による証明書をくれればよい
これでかなり数が絞られる

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この「文章表現法」でやるのは文章の書き方 自分は文章巧くないから文章巧くなりたいと思って 文章巧くなるための本を読んだりするかもしれないが ああいうものは忘れてください ここでやるのは名文ではなく明解な文章 明解でなくても名文は存在する なんだかわけがわからないけど感動してしまう 説明できないくらいすごい そんな馬鹿な話が…でも在る そういうのは初級の諸君らがやっても意味が無い 言語を文字化したもの文章 日本人は中国から文字を借りてそれを1500年使っている 基本は言語 文字化されると整理される 言語はギリシャ語でlogos logosには論理という意味もある 「はじめに言葉ありき」 logosありき 論理、理性、理性の光があった 同じ意味 学問という意味にもなる サイコロジー、アルケオロジー 言葉は論理 これはすごく大事
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明解な文章は練習量に比例して伸びる もちろん才能もある でも努力すれば出来る 名文は違う 出来ない人は出来ない この講義を受けると名文を書けなくなるということもない 明解な名文が書けるようになるというだけ 自分が名文家だと思っている人も何の心配もいらない 言語は論理だということを肝に銘じてください 特に理科系の諸君らは 名文も論理 小学生の論理ではなく高等数学の論理だというだけ 文章の本質は論理 そう考えると理科系の方が有利だと思われるがそもそも 理科系も文科系もない 理科系の人は文章を書く時間が短い、練習量の違いだけ ドストエフスキーも工兵学校を出ている 湯川秀樹も親戚は文科系の一流学者が多い 一族の中に理科系の天才も文科系の天才も出ている しかし違いはあるのではないかと言うかも知れない 普通程度に頭の良い、理科大に行けるような人にとって 慶應の法学部に行ってる奴と違いがあると思われるかもしれない 勉強の違いだけがある 理科系は真面目 文科系はいい加減 これだけ ぐれて暴走族になるかもしれない ぐれた期間勉強しなくて島崎藤村読んでないからといって その後、芥川を読めないということはない 室町時代やってなくても江戸時代がわからないということはない 三角形の合同条件がわからなければ幾何はわからない 理科系は積み重ねが大事 積み重ねのある段階が飛んじゃうとその後何も分からなくなる これが理科系と文科系の違い 本当にすごい人は違いがあるかもしれないけど 本当にすごいドストエフスキーは理科系だった 諸君らは文章を書く時間がなかっただけ だからやればできる 滞空時間にパイロットの腕は比例する 喋ってるときはいい加減 冗長性がある 文字化して整理すれば文章になる 言語能力は人間の基本 標準装備 その中に優劣の差があるが、理科大に入れるくらいの知能があれば大丈夫 species 種 種に標準装備されている能力とされていない能力があるが 文章能力はされている能力 20歳男子100mを10秒で走れば無茶苦茶早い 私の高校時代の体力測定 スポーツあまりやらないから遅い方だったから13秒後半、 平均は13秒前後 9.77と13.8の誤差率は3割程度 ものすごく遅い子でもその程度の差しかない 半年間特訓をすれば私でも12.5くらいで走れるようになったと思う 標準値からそれくらいしか違わない 人間という種はそれくらいで走らないとまずいからそうなっている 42,195km走るのは標準装備ではなくオプションだから 走れない人も居る 文章は練習量 つまらない自尊心があって恥ずかしいと思っているとだめ
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文章表現の本は役に立たない 5W1Hがどうのなんて考えているプロの物書きはいない 物書きとして大成出来なかった奴が文章表現の本を書くから信用しなくていい 何の役にも立たない 文章で大事なのはわかればいい 簡単でものすごく難しい わかればいいということは、わからなければだめ わかる、わからないはどういうことか 相手(1人〜)を想定する 夫婦の会話「かあさん、あれ」 これだけでわかる わかればいい 5W1Hもへったくれもない 「お父さんは胃が悪いので胃薬をこれから飲む」なんて言う必要は無い しかしわからなければだめ 文章は相手の目で書く もう一回読者の目で読み直す 諸君らがラブレターを書くときのことを考える 相手が100%正しく受け取るかどうか読み直す 中級になると引っ掛けがでてくるけどこれは別の話 標準的な文章 - 新聞記事、雑誌記事 多くの資格試験は高校卒業程度 日本の高校卒業のレヴェルはとても高い 日本の一番知的水準が高いのは高校3年生と言われている それが本当に出来ているかはともかく、出来ていると想定して書く 高校卒業程度を想定して書く
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もう一つ、 辞書を引くことも大事 辞書を侮ってはいけない 電子辞書でもいいけど紙の辞書の重要性を認識してください 偶然知らない言葉を見ると言葉についての知識が増える 電子辞書は広がりがない 言葉の定義はロゴスの基本 重い辞書は引かない 広辞苑大辞林 だから小さい辞書が便利 でも辞書はいくつかあると便利 意味の違いがある ほとんど内容の同じ辞書がある 個性がはっきりしている辞書を2つ買ってもらいたい 辞書はとにかく使って欲しい 辞書は面白くないと思われているかもしれないが そんなことはない 小型の辞書で良いのが2つある 『新明解国語辞典三省堂岩波国語辞典岩波書店 個性の間が離れていて良い 「恋愛」 男女間の、恋いしたう愛情(岩波) 一組の男女が相互に相手にひかれ、ほかの異性をさしおいて最高の存在としてとらえ、 毎日会わないではいられなくなること(明解) 明解は何でこうまで言いたくなるのか、奇妙な編者の情熱がある どっちがいいとは言わない 「清廉」 心が清らかで私欲がないこと(岩波) 心が清らかで私欲がないこと 〔役人などが珍しく賄賂などによって動かされない時などに言う語〕(明解) 明解には「など」が3回もある 私だったらこの文章は直すが、変に厳密性を求めている エディション、版がいろいろあるが 古いのは新語が載っていないだけなので古本屋で古いのを探すといい 差別語が載っていないと古い文学の意味がわからないことがある むしろ昔の版を買うべき