トリノ、24時からの恋人たち/監督:ダヴィデ・フェラーリオ/2004伊

映画大好き主人公は映画博物館の夜警の仕事をしています。天職すぎて羨ましい。それを捨てて恋人と生きていく、というのは話のロジックとしてはわからなくもないけれど、あまりの天職さに果たして勝てるものなのか危うい。何しろ映画は主人公の普段の生活を美しく描きすぎているし、ヒロインもそこから主人公に興味を持ったわけだし、何より夜警の仕事は反社会的でも非現実だというわけでもなく、積極的に捨てる理由がありません。そもそも主人公が他に仕事があるのかわからない。もっとも映画博物館の警備中に勝手に設備を動かして電気代を使いまくっていることは反社会的かもしれないけれど。

危ういところは他にもあって、決断力の足りないヒロインによるリベラルな生き方の試みが悪趣味だったり、ライバルが十分な説明なしに凶弾を浴びるなど、どう納得していいのかよくわからないような雑なところもあります。

しかしながら、数々の古典映画へのオマージュが素晴らしく、特に映画を実用的に消費している主人公の態度からは、映画がただの夢想ではないことが明らかです。ただのノスタルジーに零落していません。もちろんノスタルジーとしても、キートンの映画が観たくなりますし、手回しカメラを使いたくなりますから、大きな力を持っていると思います。