アキレスと亀/監督:北野武/2008

アキレスと亀 [DVD]

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TAKESHIS'』『監督・ばんざい』と来て、三部作の最後。話の構成は驚くほどに普通になっています。構成は普通でも話そのものは気が狂っていて、画家を目指す主人公の身の回りではガンガン自殺が行われ、主人公は度を越して頭が悪い。芸術は人を不幸にする。主人公はあまりにも才能がないのでもっともっと不幸にする。気の滅入る話です。

主人公は、子供の頃にうっかり絵を褒められてしまったおかげで、画家を目指し、画商の極めててきとうなアドヴァイスに惑わされ、主体性のない三流の作品を作り続けてしまいます。画商の言われたとおりに描くのではなく、気侭に描いていれば成功したのかもしれません。主体性が必要だった。しかしこれは性格だけの問題でしょうか。貧乏なことがそれを許さなかったという面もきっと大きいのではないか。絵は売れないといけない。

市場に与すことで駄目になる作家の話はたぶん世の中にたくさんあると思います。けれど、市場から何の恩恵も受けていないのに、市場を意識したおかげで勝手に主体性を失い駄目になる人間の方がもっとたくさんいるはず。その一例をはっきりと描いたのがこの映画で、なぜはっきりしているのかというと、主人公はもともと裕福であったから。裕福のまま描き続けていた未来を想像できてしまうのです! まったく、貧乏人が芸術をやるのは難しいなあ…。貧乏は主体性の敵。