REMIX/ローレンス・レッシグ

REMIX ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方

REMIX ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方

レッシグ著作権ものの最終作ということだけれど、個人的にはこれまでの3冊からあまり進捗がなくて残念だった。もちろん十分に面白く読める本なのだけれど。

訳者あとがきで山形浩生も不満を呈している。犯罪者を減らすために法律を緩くしよう、という点について。これは確かに不思議な話で、犯罪者を減らすことが本の「結論」とするほど大きなこと論点なのであれば、『CODE』で描いた悪い未来のようにがアーキテクチャ的に規制してしまったら方が犯罪者の若者は減るから、世の中はマシになるのではないか。そもそもハイブリッド経済がそんなに良いものであれば、法律が変わらなくても、がちがちなアーキテクチャ上で経済的な選択として自由を可能にする流れが一般的になるはず。『コモンズ』で描かれたようなイノベーションの阻害も、今のところそこまで深刻な事態にはなっていないように思うし。

レッシグの言うように、アマチュア創作だけフリーにする方向で著作権法を緩くするとする、しかし、商業利用の場合はフリーにしない、というのを厳密に行うのは困難で、例えばYouTubeはリミックス作品によって広告収入を得ていて、それが元の権利者に還元されるためには、結局がちがちなトレーサビリティの付随したアーキテクチャが必要になる。それは結局最強のコントロールも提供することになる。そのYouTubeも、日本の同人誌も、(無償公開されることもあれば有償公開されると思われる)ツイートをサンプリングした現代美術も同様に、アマチュア創作とそうでないものの区別を付けること自体かなり難しい。

フリーかそうでないか、というだけであれば話は区別は容易だけれど、アマチュア創作から生成された広告コンテンツは商用なのは自明、だけど広告コンテンツとして作られたアマチュア創作は? 収益を得ているかどうか、という問題以上に収益が発生するのは誰の意思によるものかという問題に直面する。というわけで、プラットフォームを提供することで広告収入etcを得ているプレイヤー、ならびに広告コンテンツとして作られたアマチュア創作(場合によってはその逆)をうまく整理できないと法律を変えるアプローチは難しいように思う。

ところで、レッシグは「デジタル共有小作はこの世界では長生きしない」と断言している。これは二次創作物の権利を一次創作者が保有するということで、例えばかつての私のプロダクト「ノベラル」はそういう売り方をしていた(その方がセールストークが容易)・自分達のプロダクトはレッシグに全否定されるものだったのだ!w 実際、多くのユーザーは規約をろくに読まないし、運営側も読んでいないかもしれないから、問題が出てきた時に違いが現れるし、そもそも実際にノベラルを利用してくださったメーカーさんは、二次創作物の権利をユーザーにあるものとして運用することになったから、問題ないわけだけど…しかし! 実はデジタル共有小作のロジックは自分が就活の面接で使った部分だったりするから(安全に二次創作させることが重要とか何とか喋った。もちろん広告代理店にはその方が受けがいいw)、今の自分をやや否定される感じではある。まあ、実際そういう仕事をしてるわけじゃないけど。

後はメモ。

・権利を減らして責任を減らすというのは重要なことに思える。ブランドそのものの考え方を変えざるを得ないけれど。ただ日本の場合、元権利者よりもプラットフォーマーの方が十分に責任を要求されている気がする。
・フリーなコンテンツがGPLのように伝搬するだけだったら話は簡単。
・商業経済、共有経済の区別は、まあ想像できる範囲だけど、共有経済を自己中心と汝中心に区別するというのは考えてなかったな。
・商業経済、共有経済が如何に相容れないかは日本語であれば嫌儲の一言で説明が終わる。だからといって日本でハイブリッド経済が栄えていないわけではないのがまだまだ解明すべき余地のある部分。

電通とリクルート/山本直人

電通とリクルート (新潮新書)

電通とリクルート (新潮新書)

タイトルの2社についての歴史書だと思ったらプチ思想書でした。タイトルは半分くらい釣り。まあタイトルなんて釣りでこそ新書か。さおだけ屋的な。

後半(思想部分)がちょっと冗長でした。更にねちねちと書けば自由論になります。個人的には歴史部分の方が楽しかったです。まあ仕事上興味を持たざるを得ない部分ではあるけれど。

ダンス・ダンス・ダンス/村上春樹

ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

初期3部作の続き。やはり村上春樹の中ではこのシリーズが好きですね。『羊をめぐる冒険』よりもキャラクターが目立っていて愉快に読めます。当然のように人がばったばった死んでいくけれど、愉快に読めます。…いいのか?

「踊る」というと資本主義社会で踊るイメージが強いのだけれど、どうもこの作品ではそうではないようで、センス闘争をとびきり上手にやるということでしょうか。それはメタ的に読みすぎか。資本主義社会で踊ることができてもセンス闘争に敗北すると突然死は訪れる!

ゴダール・ソシアリズム/監督:ジャン=リュック・ゴダール/2010スイス仏

5人を巻き込みゴダールの新作を映画館に観に行くという愚行。当然寝る奴が何人かいます。寝てしまう人には、全編を高速で流す予告編がオススメです。多分それなら寝ない。

内容は相変わらずよくわからないけれど、思ったよりすごかった。特に第2部は観やすく面白い。自分はこの程度に話の流れのあるゴダールが好きなのです。1部、3部のようにコラージュで構成されるとさっぱりで途方に暮れるけど、それはそれで文法だけ味わう。どこも格好良かった。子供が指揮者の真似をするところなんて最高。

クール井上/いましろたかし

いましろたかしは雑誌の中でたまに読むと面白いのだけど、真面目に読むとそんなに面白くないということがわかりました。ずっとテンションが低いままだからでしょうか。雑誌内のように落差を味わえない。そんな単行本の中では、パチゴロの話が面白かった。短いギャグ漫画も悪くないけど、もっと上手に描く人はいそう。

ザ・ビッグ・ワン/監督:マイケル・ムーア/1997米

ザ・ビッグワン  [レンタル落ち] [DVD]

ザ・ビッグワン [レンタル落ち] [DVD]

マイケル・ムーアが講演でアメリカの様々な都市をまわって、その土地の企業にちょっかいを出すドキュメンタリー。小粒な体当たり取材ばかりで小粒な作品かと思いきやナイキ会長というラスボスがいました。なかなか緊張感のある対話なのだけれど、個人的にはフィル・ナイトのかわし方とその後の処理は結構うまい社会的対応ではないかと思ってしまいました。少なくとも対話すらしない他の企業よりは。

スタッフロールにまで嫌味な映像を挿入するのはさすが。

ところで、アメリカの労働者は「かつて豊か」だったそうですが、現在の日本もワーキングプアといった言葉をはじめ、そういった言説が増えてきました。労働時間も似たような感じだし、実にアメリカをなぞるかたちになっています。ところが日本ではインターネットに才能を奪われているのか、マイケル・ムーア的存在がいないという問題があります。一方で日本の労働問題需要はそれなりにあるだろうから、自分はロウドームービーを撮ろうとしているw

キャピタリズム〜マネーは踊る〜/監督:マイケル・ムーア/2009米

様々な映像のコラージュを中心に構成された前半は面白かったです。マイケル・ムーアの得意技。

後半はバカのふりがわざとらしい。デリバティブなんて説明されても何のことやらさっぱりわからない、といったノリ。勿論デリバティブが何か説明しなくても人々の共感は得られるだろうけど、そこで思考を止めてしまっていいのでしょうか。ウォール街でもあんまり愉快な行動を取れていなくて残念。

マイケル・ムーア憲法キリスト教の倫理によって資本主義に疑問を呈しているので、例えばウォール街で働いているクリスチャンなどはそこらへんどう思っているのか気になるところ。自分に金融の知識があったら、極限まで倫理に反する金融商品の思考実験をしてみたい。

CUE

Cue 1 (ビッグコミックス)

Cue 1 (ビッグコミックス)

2巻くらいまで面白かったけど最後は突然終わります。

作者はきっと小劇場の前衛っぽい演劇が好きなんだろうけど、特にそれを否定も肯定もしないバランスが良かったです。ただ、主人公が中学生なのは色々な条件下でそうなったのかもだけど、中学生にとって前衛演劇は難しそうで、リアリティを感じづらい。

『CUE』そのものよりも、3巻に入ってる「純粋あげ工場」が面白かったです。松本充代のような内向きでちょっとハードな内容。そしてラストも格好良く、『CUE』の5倍はうまくまとまっています。やはり村上かつらは短編(中編?)が良いなあ。

あたらしい朝 2巻

あたらしい朝(2)<完> (アフタヌーンKC)

あたらしい朝(2)<完> (アフタヌーンKC)

黒田硫黄の久々の新刊。

普通の話のため、黒田硫黄キチガイじみた話が好きだった自分にとっては少々不満だけれど、単にコマを追っているだけで楽しい漫画なのは確かです。ドイツ軍にもう少し思い入れなどがあれば楽しかったのかなあ。

もっとも良い演出だと思ったのは、一巻から二巻の繋ぎ。

ルート225

ルート225 (シリウスKC)

ルート225 (シリウスKC)

珍しく原作付きの志村貴子

SFだけど、基本は人間ドラマというか主人公の成長なので、異世界のロジックは殆ど解明されず、違和感が登場人物にも読者にも残る話。始めは土地すら歪んでいるし、平行世界もの的に綺麗な収束は難しいのだろうけど、かわりにちょっと違った世界で行き続けていくゆえの希望みたいなものがあれば良かったです。素材は十分だと思うし。

ダウン・バイ・ロー/監督:ジム・ジャームッシュ/1986米独

途中から登場したイタリア人に全てを持っていかれる、小気味良いユーモア映画。これまで観たジャームッシュ映画の中ではもっともポップで楽しみやすいものでした。ただし、センスを理屈抜きに楽しめるというほどではなく、やはり自分とジャームッシュの相性はあまり良くないものと思われます。

最初の街並みと最後のカットのレイアウトが印象的。

Kinect アドベンチャー!

Xbox 360 Kinect センサー

Xbox 360 Kinect センサー

Kinect同梱のゲーム。これを遊ぶために大変な苦労をしました。

一体何が起こったのか説明すると、自分のXbox360は旧型なので、Kinectセンサーは本体前面のUSBコネクタでは認識してくれません(しかも外部電源も要る!)。そこで、センサーを取り付けるためにDiscを入れたままXbox360を動かす→Xbox360発売時に話題になったように、Discにガリガリ傷が付く→読み取りエラーでゲームが起動しない→歯磨き粉などを駆使して研磨→復活!という経緯。疲れた…。

自分の部屋は大変狭いので、ベッドの上で遊ぶことになるのですが、遊んだ感想としては、とりあえずベッドの上は辛いです。ジャンプするとベッドが壊れるおそれがあるうえに天井に頭がぶつかり危険。そもそもKinectは床の上で遊ぶことが前提だから、センサーが床を認識できないまま遊ぶことになります。少なくとも、首振り機能をオフにしないとまともに認識してくれません。

でもジャンプがなければ17平米の汚い部屋でも普通に遊べるし面白い。収録されているゲームの中では、「リバーラフティング」が一番いいかな。これはジャンプあるけど…。あと、手をばたつかせて無重力空間を浮遊できる「スペースポップ」が一番未来感がありました。この操作性は他のゲームにもいろいろ使えそう。何よりこれこそがゲームといえるもの。他のゲームは現実の動作の模倣に過ぎないから。スポーツシミュレータを多少派手にした程度だったら実際のスポーツやった方が良いです。だったら無重力空間を楽しんだ方が良いともいえるけど、まあ現実的ではないし。

Wiiリモコンを生かしたゲームが多くないように、Kinectを生かしたゲームもそんなにないと思われるし、そもそもゲームはコントローラを使った方がラクな操作が多すぎるけれど、確実に体を動かすスポーツはWiiよりうまく表現できるし、それ以外にも、覗き込む動作(顔の位置によって、ゲーム内の視点を変更する)などはADVでも生かせそうです。

フォロウィング/監督:クリストファー・ノーラン/1998英

フォロウィング [DVD]

フォロウィング [DVD]

クリストファー・ノーランの長編デビュー作。ざくざく時系列を編集した結果、大変スリリングな展開になっています。面白い。

ただし、わかりにくく編集することの意味がスリリングにすること以外何もないので、そこに重要な意味がある『メメント』はより素晴らしい。

とはいっても、休日を使ってこのような作品をきっちり仕上げることの出来るノーランはさすがです。会社員である自分も頑張らなければ、と思わされます。デビュー作を観て、昔はあまり巧くなかった、という意味で勇気付けられることは往々にしてあるけれど、これはまた違った意味の動機付けがなされます。

100%オレンジピンク

100%オレンジピンク

100%オレンジピンク

いつ連載されたものなのかよくわからないけれども、表題作以外の短編だけは面白い。特に「お母さんもきっと知ってる」が良い。

表題作はこれまで単行本化されなかっただけの理由があるような内容の薄さだけれど、対象年齢が若めなのかなあ。いずれにしても、短編の方が遥かに向いている漫画家だと思います。